ADS-B? 何の話?

ADS-Bは簡単に言うと航空機の位置情報をやり取りする通信のことで、Wikipedia先生によると、

放送型自動従属監視(ほうそうがたじどうじゅうぞくかんし 英語:Automatic Dependent Surveillance–Broadcast, ADS–B)は、航空機衛星測位システム(GNSS)を使用し自らの位置を特定し、その機位を定期的に送信することで追跡を可能とする監視技術となり、主に航空交通管制で使用される。

Wikipedia(放送型自動従属監視)より引用

ということらしいです。(自分も深く理解しているわけではない)

身近なところではFlightradar 24というサイトで、ADS-Bにより取得された位置情報を確認することができます。

実はこのサイトは、特定の機関が情報を受信しているのではなく、世界中のボランティアたちが各々受信したデータを集計することで成り立っています。

私も、今回SDR受信設備を導入したので、このプロジェクトに参加しようと思い、受信用のアンテナを製作することにしました。

※SDR・・・ソフトウェア無線(Software-defined radio)、ソフトウェア上の信号処理によってさまざまな周波数・変調方式の無線を受信する技術のこと

Flightradar 24に情報を提供すると、アカウントをビジネスプランにアップグレードでき、年間$500節約することができます。(と言っても、元々このサイトはあまり利用してこなかったので節約もクソも無いですが、単純に面白そうだからやるだけです。)

私自身、航空ファンではないので、どちらかというと無線工学方面の興味に基づいて行う感じです。(そのため航空の知識は無いので、間違っていても大目に見てください…)

アンテナの設計

今回製作するアンテナはコリニアアンテナと呼ばれるものです。その中でも今回は製作が比較的簡単な、同軸コリニアアンテナを作っていきたいと思います。

同軸コリニアアンテナは同軸ケーブルを1/2波長に細切れにして、芯線と網線導体を交互に接続していくことで製作します。

使用する周波数は1090MHzと高めなので、正確な寸法に加工しないとSWRが悪化します。

※SWR・・・定在波比(Standing Wave Ratio)、進行波と反射波の関係を表す無次元量の数値。高周波は伝送線路内を水面の波のように進むため、整合を取らないと信号が反射してきて損失が発生する。

設計の参考にさせて頂いたサイトを以下に示します。

使用する同軸ケーブルは5D-2V(短縮率67%)であるため、各エレメントの長さは

(エレメント長)= 0.5 × (波長300/1090)× (短縮率0.67)= 9.2cm

と求まります。ここから同軸エレメントを段々に接続するため、はんだ付け用の糊代分で+1cm足して10.2cmに同軸ケーブルを切断します。

以下に手描きではありますが、簡単に設計図を示します。

赤が芯線、青が網線導体です

参考にしたサイトでは先端には50Ωの終端抵抗を取り付けてあります。おそらく末端での信号反射を防ぐためだと思います。50Ωの手持ちがなかったので、200Ωを4並列にして代用します。むしろ4つに分けた方が中心に対して点対称になるので、指向性が360°均等になると思います。

図面向かって右側は同じような構造を繰り返していきます。図面では3段までしか描いてませんが、今回は1m程度の全長にしたかったので、実際には8段まで作ります。その後M型接栓が付いた同軸ケーブルを同じように段々に取り付けて、外装の塩ビパイプに通して完成です。

当然、段数を増やせば利得は向上しますが、指向性の打ち上げ角は低くなっていきますし、長くて扱いづらくなります。打ち上げ角が低くなると、真上にいる航空機の信号が受信しにくくなるという問題が発生するため、段数はほどほどにしておきましょう。

作製開始

まずは同軸ケーブルを10.2cm(少し余裕を持たせた方がいいかも?)にカットします。

次に両端から1cmずつ被覆を外し、フラックスなどを付けて中心寄りの半分だけ予備はんだをしておきましょう。

被覆を剥くときは、カッターをケーブルに対して垂直に当てて机の上で何周か転がし、縦に切れ込みを入れると、ちょうどペットボトルのラベルをはがす原理で綺麗に剥けます。

一度に剥こうとすると、網線導体が傷ついてしまうので、弱い力で何回かに分けてカットするといいと思います。

向かって左側だけ予備はんだ

以下の写真のように、外側5mmの網線導体および絶縁体を取り除きます。クソでかペンチの根元でニギニギしながら回転させると切除できます。芯線を傷つけないように気を付けましょう。

設計図のように網線導体両端の長さが92mmになるように精度よく加工しましょう。

この際、芯線と網線導体がショートしてないか、目視とテスターで確認します。

確認後、はんだをさらに盛って硬化させつつ、長さを微調節します。

左端が加工済み、右端が加工前

この後、段々に繋いでいくわけですが、同軸エレメント同士をぴったりくっつけないといけません。そうすると網線同士が接触してしまうため、芯線を絶縁シート(熱収縮チューブをカットしたもの)に突き通します。

芯線を貫通させて…
距離を詰めます

その後、フラックスを大量に塗ってはんだ付けをします。同様にショートしてないかを確認します。

確認後は熱収縮チューブではんだ部を保護します。これを段数分繰り返します。

設計図通りに精度よく加工出来ていれば、この時点で全長(上下網線末端間の距離)は92mm ×(段数)の長さになっているはずです。

先端のエレメントには200Ω×4を並列にはんだ付けして、熱収縮チューブをかぶせ、先端はグルーガンで密封します。

下端にはMJ型接栓を付けた同軸ケーブル(長さは任意)をエレメントと同様に絶縁シートを挟んではんだ付けします。

全体像は以下のような感じです。M型コネクタにテスターを当てて、50Ωを示すか確認しましょう。

固定用アンテナなのでMP接栓にしたかったのですが、同軸ケーブルを直付けできるMP接栓の手持ちが無く、価格も高いです。そこで家に転がってたMJ接栓をひとまず取り付けて、MP-MP変換を塩ビパイプキャップにねじ止めします。以下の図のような構造にします。

字が汚いのは愛嬌

しかし本記事執筆時点ではパーツが届いておらず、外装は作れてません。完成次第この記事を更新して、画像を掲載したいと思います。

(4/8 追記)

塩ビ管その他パーツが手に入ったので、以下の画像のように外装を製作しました。

MP-MP接栓にあらかじめぐるっと一周グルーガンを付けて、塩ビ管キャップの内側から圧入し、ナットを締めることで防水性を高めています。

また、以下の画像のように木製支柱を取り付けて折り返すことにより、アンテナマスト取付位置をアンテナ中心に持って行ってモーメントを減らし、アンテナマストのねじれ負荷を軽減しています。(右上の黒いやつはLNAです)

(追記ここまで)

受信してみる

今回使用するSDRドングルおよび受信用アンプ(LNA:Low Noise Amplifier)は以下の製品です。

LaNA(nooelec製のLNA)を使う前提なら、SMArtよりSMArTeeの方が良かったかもしれません。DCオフセットを同軸ケーブルに掛けることで、別途電源ケーブルを使わずにSDR→LNAに電力供給ができます。ただし、対応してないLNA(DCカットコンデンサが無いタイプ)を使ったり、LaNAを挟まずに短絡型のアンテナに直結すると故障に繋がるので注意が必要です。

Flightradar 24へのフィードはRaspberry Pi 2Bを使用しますが、2022/4/2現在ボランティア募集がある事件により一時的に停止されています。

4/8 追記:Flightradar 24のフィード受付は4/4に再開されました。

よって今回はローカルWindows上でADS-Bを受信・表示する環境を使用します。

使用したのはdump1090およびVirtualRadarです。詳しいインストール方法と使い方の解説は他のサイトに任せるとして、受信した結果だけを書いていこうと思います。

比較対象として以前に自作していたADS-B用1/4波長GP(グランドプレーン)アンテナと、アマチュア無線用の144MHz帯GPアンテナを用います。

以前に作ったADS-B用1/4波長GPアンテナ
144MHz帯用GPアンテナ

受信環境は浜松市某所の自宅で、南側に台地の崖があるため、かなり電波が遮られます。アンテナをベランダからマストで高く上げても、台地の地面より遥かに低いです。台地からすれば地面どころか、地中にアンテナを置いてるのに等しいので、アマチュア無線をやってた時もかなり苦労した電波環境です。

反対に北側はかなり開けているので、関西・北陸の方の信号は狙えそうです。アンテナは3種類とも北側の窓際に設置します。

では結果を見ていきましょう。

144MHz帯用GPアンテナ

これはひどいですね。近くの航空機を一機捉えたのみでした。やはりアンテナの使用周波数帯と合ってないと、全く整合が取れないことがわかります。

144MHz帯用GPアンテナ

旧ADS-B用GPアンテナ

先ほどとは打って変わって、多くの機体を捉えることができています。10cm程度の小型GPが1.2mの大型GPを打ち負かした結果となりました。高周波の世界では大は小を兼ねないようです。

旧ADS-B用GPアンテナ

ADS-B用同軸コリニアアンテナ

いよいよ、大本命の今回自作したアンテナとなります。結果は…

今回自作したアンテナ

あれ、あんまり変わんなくね?

VirtualRadarは位置情報まで受信するとマップ上に表示されるのですが、今回自作した方では機体数が若干増加したようです。

信号強度(Sigの列)を比べると、旧GPアンテナの方が強く見えますが、時間経過とともに機体が我が家に接近してきてる(GPの方を後に測定したため)ので比較は難しいです。

同時に比較できる設備があればよかったのですが、SDRドングルは一台しか持ってないので、できませんでした。

もっとも、今は窓ガラスにもたれかからせる形で設置してるので、マストで高く設置する・測定器を使ってチューニングする・受信用フィルタを取り付ける等すれば、差が歴然となるかもしれません。

まとめ

今回は一応理論に基づいて製作はしましたが、約1GHzの高周波ということもあり、寸法はかなりずれている気がします。また家に測定器が無いため、チューニングも行えていません。

大学でどっかの研究室がVNA(ベクトルネットワークアナライザ)とか貸してくれれば、チューニングが行えるんですが….|д゚)チラッ

というわけで、今回はADS-B用のアンテナを作って、航空機の位置情報を捉えてみる話でした。Flightradar 24のボランティア受付が再開したら、Raspberry Piでフィード環境を構築しようと思います。

4/8 追記:先述したとおりフィードが再開されたので、現在はRaspberry Pi 2Bでフィードを行っています。詳しくは別の記事に書くかもしれません。(気が向いたら)

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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